ファイル交換ソフトは
インターネットの新しい可能性だ
お祭り小僧のランダム・アクセス
そろそろうっと惜しい梅雨の季節がやってきます。今年は5月の末あたりから妙に梅雨っぽい季節になってきましたが、このまま梅雨なんて事になったらかないませんね。五月の青空が一番気持ちがいい季節なのに残念です。
ゴールデンウィークには、女房と2人で上海・桂林・蘇州の旅に出かけてきました。私は何度か中国本土に足を運んだことがあったのですが、女房にとっては初めての体験でした。アジアの旅にはあまり気乗りがしない女房でしたが、だんだんとアジアの旅にも興味を持つようになってきました。今回の中国も、上海の高層ビルラッシュ、桂林の素朴で珍しい風景などを十分に楽しんだようです。毎日食べきれない量の中華料理が出てきたため、つい食べ過ぎてしまい、帰って体重を測ったら2kgも太ってしまっていました。2ヶ月分のダイエットの効果はどこに行ってしまったのだ。桂林で面白いお茶を見つけました。一葉茶と言ってマッチ棒のようなお茶です。舐めると少し苦いのですが、これを口にくわえているとタバコの量が少し減るのではないかと買い求めてきました。半月ほど試していますが、タバコの量は少し減ってきています。なんだか最近健康志向が高まった感じで、なんだか奇妙な思いがしています。
ナップスターから始まったP2Pネットワーク
さて、Winnyを巡っての動きが騒がしいですね。ここで少し私なりに事の流れを整理してみようと思っています。
皆さんに改めてWinnyについて説明するというのはおこがましいわけですが、ファイル交換ソフトP2Pネットワークから話を始めていきましょう。インターネット上でP2Pネットワークと言う概念がアメリカで1999年2人の若い学生によって開発されました。従来インターネットのダウンロードの概念は、特定のサーバにあるデータにアクセスしてそれをダウンロードするものでしたが、この「ナップスター」というソフトは、これまでにない斬新な情報交換の仕組みが込められていました。インターネットに接続した個人のパソコンから「ナップスター」サーバにアクセスすると、そこには「登録台帳」があるだけでデータは存在しない、この台帳にある他人のパソコンに直接アクセスして、欲しいデータをダウンロードするという技術が生まれたのです。この技術をもって音楽データ(MP3)の配信サービスを行ったところ、あっという間に膨大なユーザーを獲得したのですが、音楽業界からの猛反発の末、とうとう裁判に負けて現在では経営者が変わって有料音楽配信サービスへの転身が行われています。しかし、この技術はインターネットに大きなムーブメントを与えてしまいました。
MP3とP2Pの結合
この音楽配信に使われたデータ構造はMP3というもので、これは、MPEG 1 Layer-3 Audio 規格の略称で、MPEG Audio とは、動画圧縮技術で著名な MPEG の音声部分データ圧縮アルゴリズムです。MPEG Audio は Layer が大きいほど圧縮率が高く、Layer-3(MP3) では、圧縮前のデータと比較して約10分の1という信じられないような高圧縮率でありながら、CDに近い音質を保つという効率的な圧縮技術として注目を集めています。人間が聞き取ることが不可能な帯域の音をカットして圧縮するというのが、その仕組みである。よって、アナログの音質を求める人達にとってはあまり面白くない技術ではあるのですが、そこそこの音質を高圧縮なデジタルデータに変換できると言うことで大変注目を集めたわけです。この技術とインターネットが結びついたとき、大きなムーブメントが起こったのです。
つまり、劣化しないコピー音質が保証されるデータ(アナログデータはコピーされるたびに劣化していくが、デジタルデータはコピーしてもデータ劣化はしない)が、インターネットという大きな仕組みの中でいとも簡単にデータ交換ができる事態になったわけです。これは音楽配信事業を営んでいる人達にとっては非常に脅威になったわけです。音楽配信事業を営んでいた人達にとっては、こうしたコピー行為に対して今までも何度か大きな波をくぐってきたわけです。つまり、ラジオやTVという宣伝配信とテープレコーダ、ビデオレコーダの普及の時がそうでした。データ量が少ない音楽配信から、データ量が多い映像データにその範囲も膨らんできました。
コピーの歴史性とコピー技術の革新
つまりコピーするという行為は、人間の歴史と共に始まり、それは人間社会の文化の普及を支えてきたわけです。歌は語り伝えられ、書物は「写経」のような形で書き継がれ、広く文化が広がってきたわけですが、古い時代には簡単にコピーができる技術がなかったため、熱い思いを持った人達の努力で伝えられてきたわけです。ところが、こうしたコピーをしたいという人間の要求にこたえるように、印刷・映画・ラジオ・TV・複写機・テープレコーダ・ビデオレコーダなどが生まれてきたわけです。これによって、我々はいとも簡単に複製を手に入れることができるようになったため、文化の伝染力は極めて強力になってきました。20世紀に生まれたラジオや映画などの技術は当初国家権力のプロパガンダの材料として相当有効であったことは、ナチスや日本の歴史を見れば明らかなことです。コピーという概念は、単純に私的なものという以上に、権力を持った人達が自分たちの思想を宣伝普及させるために必要なものだったのです。つまり、当時はコピーを助ける技術というものが非常に高価であったため、一部の人達でしかそれを利用できなかったわけです。ところが、このコピーする道具の発達が新しい局面を生み出してきました。誰でも簡単に書物、音楽、映画をコピーすることができるのなら、それを最初に作った人の著作権はどうなるのかと言うことが問題となり、著作権という概念とそれを守る法律が制定されたわけです。
特許法・著作権法とコピー技術
簡単にしかも大量にできるコピー技術は、過去の権力構造や産業構造を破壊してしまうだけの力を内包していたわけです。ハリウッドの映画会社がソニーを訴えたベータマックス訴訟やゼロックスの複写機訴訟もそのひとつの現れでした。こうした裁判では米連邦最高裁は、「一部ユーザーが違法な使用方法を発見したからといって、技術自体を違法とすることはできない」としました。しかし、こうした新しい技術が生まれるたびに、蒸し返されるようにこのような議論や裁判は起こっています。
話を戻しましょう。つまり、コピーという概念は人間の歴史の中で文化を発達させてきた貴重な概念であったと言うことです。しかし、原本の権利は侵してはならないと言う考え方も一方で存在しました。古い時代から今日まで、新しい技術や創造物の複製を防ぐために国家的規模で情報を管理したことも事実です。原本とコピーの関係は、永遠のテーマでもあるでしょう。創作者は他者から簡単にコピーをされない工夫を凝らし、コピーしようとする人は何とかしてその技術を盗もうとするわけです。その限界を公に決めようと定められたものが特許法や著作権法です。現在著作権法では、私的利用の範囲のコピーにおいては著作権の侵害には当たらない、不特定多数の人へのコピーは著作権の侵害にあたると言う考え方が一般的です。また、コピーを可能とする技術そのものについては著作権法を侵害しないと言うのが現在の定説といえるでしょう。
ところがパソコン世界では新しい技術がどんどん生まれ出されてきます。しかも、インターネットという強大な情報交換網が生み出されてきたわけですから、従来の法感覚では付いていけなくなっています。生み出された技術は、開発者の意図を越えた使用方法が考え出され、また次の新しい世界が形成されます。
Winny技術とは
Winnyは、ナップスターのファイル交換技術をより発達させたものとして開発、普及しました。インターネットブロードバンドの速度はますます速くなり、大きなデータの転送も可能となるインフラも確立されてきたとき、Winny技術は飛躍的な普及を遂げました。ナップスターの代表される初期のファイル交換技術は、送信者と受信者が 「登録台帳」を通じて特定されるというものでしたが、Winny技術は不特定多数のノードを仲介しながらファイル転送が行われるため、送受信者が特定できないと言うことがあります。
こうした事情を踏まえながら、5月10日に逮捕時件にまで発展したWinny作者逮捕時件について振り返ってみましょう。
Winny不正使用ユーザー逮捕から
京都府警の書類流出に広がる
京都には京都府警ハイテク犯罪対策室というIT犯罪に関する特別な部署があります。最初の逮捕は、京都府警ハイテク犯罪対策室と五条署は2003年11月27日、Winnyでゲームソフトなどが不特定のユーザーに送信しうる状態にあったとし、松山市の無職少年(19歳)と群馬県高崎市の自営業男性(41歳)を著作権法違反(公衆送信権の侵害)の疑いで逮捕しました。この時、Winnyの作者の家宅捜査を一緒に行いました。警察としては、過去の猥褻画像にモザイクをかけるために用いられた「FLマスク事件」において、同ソフトの開発が猥褻図画陳列のほう助に当たるとした判例を考慮した上で、作者と容疑者との関係を証明しようとしたのでしょうが、どうもそうした事実が掴めなかったようです。その後、Winny経由で感染するウイルスによって、京都府警と北海道警の警察官が使っていた私物パソコンから、捜査報告書、指名手配書、交通事故発生報告書などがネット上に流出する事件が発生しました。続いて日本郵政公社東海支社から郵便物の誤配状況や職員の超過勤務など一覧表の流出、陸上自衛隊第1普通科連隊(東京都練馬区)の内部資料がWinnyによりインターネット上に流出と言った事件が発生しました。そして、ついに作者の逮捕となったわけです。
京都府警がWinny開発者の東大助手を著作権法違反ほう助容疑で逮捕した。プログラム開発者が著作権法違反のほう助に問われるのは初めて。
京都府警は5月10日、P2Pファイル共有ソフト「Winny」を開発し、ユーザーが著作物を違法複製できるようにしたとして、著作権法違反ほう助容疑で東京大学大学院助手の男(33)を逮捕した。
プログラム開発者が著作権法違反のほう助に問われるのは国内初。P2Pソフトの開発者が権利者側から民事訴訟を起こされた例はあるが、「著作権法違反をほう助した」などとして刑事事件の対象になるのは世界的にも極めて異例。(ITmedia 速報2004/05/10 07:44 更新)
Winny作者逮捕は警察のメンツのためだ
この事実に対して多くのネットユーザー達は、警察権力の横暴さに憤りを表明しています。私の過去の経験から言えば、警察という組織は、ある時には公正さを装いますが、自分たちが目を付けた容疑者をクロにするためにはあらゆる手を講じるという性格を持っていると思っています。昨年11月のWinny不正使用ユーザーを逮捕した時点で一緒に作者までとは思ったでしょうが、従来の判例にてらしては作者の起訴は無理と考えたと思います。しかし、公職員、しかもお膝元の京都府警からWinnyを通じて内部資料が流失したことで、考えは確実に変わったと考えます。彼らも作者を逮捕したからと言ってWinnyがこの世から無くなるとは思ってはないでしょうが、とにかくしたたかな一撃を与えないことには面子が立たないと考えたのだと思います。「作者逮捕」という事実によって、不正使用ユーザーの見せしめを狙ったものなのでしょうが、可能性の高い技術を生み出したプログラム開発者を逮捕したという事実は世界中に知れ渡ってしまいました。複写機にしても、ビデオレコーダにしても、複製技術はどんどん高度化してきています。これらの複写技術開発者は誰も逮捕されていません。世の中は、こうした技術の登場で当初は戸惑いを憶えるものですが、そのうちにつぶせない技術なら「折り合い」を付ける術を見つけだすものです。Winny技術はその黎明期にあったわけですが、警察の面目のために「作者逮捕」に先走ったとしか言いようがありません。
Winny作者の無罪に向けて弁護団やカンパ組織ができました。彼の不当逮捕に抗議して、弁護団を支援しましょう。http://77483.org/47/