ギャンブルよりもショーの街
馬鹿になりきれなくなった私が居た
お祭り小僧のランダム・アクセス
6月と言えば梅雨、鬱陶しい季節がやってくるわけですが、5月のゴールデンウィークは休みがうまく取れるスケジュールとなっていたため、皆さんも存分に初夏の休日を楽しんだでしょうか。私は女房とラスベガスに行って来ました。春前には昨年の上海に続いて北京を中心とした中国旅行を考えていたのですが、中国情勢の不安定を鑑みてラスベガスに変更してしまいました。1年ほど前、テレビでラスベガスの近況をドキュメントしたものを見た時、「街全体がディズニーシーのような雰囲気だ」と興味を惹かれました。特に惹かれたのが「O(オー)」と言うショーで、CIRQUE DU SOLEIL という劇団が行っている空中・水中ショーでした。オリンピック級の体操や水泳選手を集めて、サーカスを越えた美しさを感じさせるショー内容に驚いたものです。そこでグランドキャニオンも見てみたいと言うこともあり、ラスベガス旅行となったわけです。
ラスベガス大全は役に立つ
そこで今月はラスベガス旅行を書いてみましょう。最近は妙にテンションが下がりっぱなしで、旅行に向けてもなかなか気分が盛り上がってきません。遊びにはいつも前向きな女房は本を読み、情報を集め、色々計画をしていたようですが、私の方は淡々としたものでした。友人からラスベガス情報は「ラスベガス大全http://www.lvtaizen.com/」というホームページがいいですよと教えられ、早速覗いてみることにしました。「O」のショーの座席指定までインターネットで出来るのですね。とはいうものの、「ラスベガス大全」のあまりの情報の多さに戸惑うばかりでした。結局あまり情報も集めないまま出発してしまいました。
安全か時間厳守か、これが問題だ
アメリカの空港チェックは本当に厳しい
関空でいざ出発かと言う時、飛行機はなかなか出発しません。空の旅ではしばしば遅れることはあるのですが、これはちょっと遅れすぎだと思っていたら、「この飛行機に不都合がでたため、別便を用意するから出てくれ」と言われてしまいました。この旅行のつい前日JR福知山線で大事故があったばかりです、乗った航空機がJALだったものですから、すんなりと受け止めてしまいました。日本の交通機関の信頼性は「安全」か「時間」かを実感させていただいた瞬間でした。とにかく「安全」は大切なのですが、関空−ロサンジェルスの旅の後ロサンジェルス−ラスベガスの乗り換えが待っています。遅れたら大変だとは思いつつ、もう成り行きに任せてしまえ、と諦めてしまいました。私達夫婦の席は「女房が窓際希望、私が通路側」と言っていたところ、後部の2人掛け席になっていました。フライト中は嬉しいのですが、ロサンジェルスに着いた時が大変です。飛行機が遅れた以上、出来るだけ早く飛行機から飛び出て出入国管理を抜け、乗り換えに行かなくてはなりません。旅慣れている私は女房に声をかけ、着陸と同時に席を飛び出し出来るだけ前の通路まで走り抜けます。この技は、かっての旅行で乗り換え便に失敗して深夜ニューヨークに着いた苦い思い出と、隣の席に座っていた他のツアー旅行添乗員があっという間に前に飛び出したのをみて感心したことから生み出したものなのですが、コンマ何秒の隙間を付いた瞬間技です。この時はかなりうまく出来、後部から一瞬にして中間部まで移行できました。アメリカの現在の入国管理はなかなか厳しく、指紋も採られましたがやっとのことロサンジェルス空港の外に出られました。最近のアメリカ便ではライターやマッチの航空機持ち込みが許されていません。預かり荷物の中までがそうです。外に出た後、ライターを捜す必要があります(そこまでしてタバコが吸いたいのかと女房は苦笑するのですが、これはタバコ吸いにしか分からないでしょうね)。空港の外でタバコを吸っている人を見つけ、ライターを借りた次第です。一息ついたら乗り換え便です。ロサンジェルスでは一旦預かり荷物を取り上げ、国内線に乗り換えですが、ここのチェックが大変厳しいのです。ロサンジェルスでいろんなツアー客が一緒になってこの乗り換え便に乗る予定で、そのうちの先頭に近い位置で身体検査をすませた私達は安心して空港ゲートに向かっていたところ、乗り換え便はすぐにも出発するぞと言っています。走ってゲートにたどり着くともう搭乗口は閉まっています。チケットを手渡すとゲートを開けてくれ、飛行機に滑り込みました。何人か私達の後を走ってきましたが、そのうちすぐに飛行機は出発してしまいました。後の人はどうなったか分からないまま、「こんな時にはとにかく出来るだけ前にいた方がいい」という教訓を思い知らされたわけです。
まずはショー観覧「Ka」
何とか予定通りの便でラスベガスに着いたと思ったわけですが、やはり定刻に付いたわけではなかったのでその夜の予定から狂ってしまいました。ラスベガスナイトツアーを予約していたのですが、その夜はキャンセル、そこで夜10時からの「Ka(カァー)」というCIRQUE DU SOLEILのショーを探したところ、うまく空席を見つけることが出来ました。短い日程ですから空白の時間を作るわけには行きません。「パリス」というホテル(ここはホテルの中からエッフェル塔が突き出ているパリをテーマにしたホテル)にたどり着いたところ、1階のカジノの広さに驚いてしまいました。まだこの時にはそれぞれのホテルにこれと同じかこれ以上のカジノスペースがあることを知りませんでしたが、カジノの端っこにフロントがあるのです。あまりの広さとだだっ広さに出入り口と自分の位置の確認が難しく、何とかホテルの部屋までたどり着きます。昨年ディズニーシーのホテルに泊まった時も戸惑ったことがありましたが、ここはそれ以上です。地図を見てホテルの内部、周辺の位置を一生懸命確認しなくてはなりません。一休憩したらMGMホテルの「Ka」に出かけましょう。女房は腹が減ったというのですが、とりあえず目的地を探し出してから考えようと励まし、やっと劇場を見つけだし、チケットも購入できました。さて、食事をと見渡しても、カジノの中のラウンジのようなところしか見あたりません。ラスベガスのホテルでは「パフェ」という大きなバイキング形式の食堂があるのですが、そんなところに入ってじっくり食事をする時間もありませんから、目の前のラウンジに入ります。どんな注文の仕方をしたらいいのかも分かりませんでしたが、カウンター席に案内され、「どうやって注文したらいいのか」と訊ねるとぞんざいにメニューを手渡されます。女房は英語のメニューを見ても分からないと文句を言うのですが、「これ、よく見たら分かるだろう。ここに飲み物、ここに食べ物、ここではサラダ、ピザ、ナッツ」とじっくり見せると「あら、落ち着いてみたら分かるわ」と言い出しました。ビールにピザを頼み、開演までの時間をカウンターからバーテン達の動きを楽しみながら過ごしました。
ラスベガスの最初の驚きは「Ka」の劇場です。とてもホテルの中に作られた劇場とは思えないほどに広く、メイン舞台の横に張り出した舞台装置に驚かされます。日付変更線を越えてたどり着いたラスベガスですから、ビールで急に眠気が襲ってきますが、舞台が始まると驚きで思わず声が出てしまいました。とても凄い舞台装置、重厚な音楽(生演奏だそうです)、舞台を飛び出しての空中ショー、あまりの大仕掛けに固唾を呑んでしまいました。舞台は登場人物達の台詞もなく、ただアクロバット的なアジアンテイストなおどろおどろしくしかも激しい動き、びっくりしてしまいました。舞台中央に宙づりになる空中舞台はその上に人間達を載せたまま垂直に立ってみたり、廻ってみたりするのですが、そのたびに登場人物達は空中からのブランコに乗り移ったり、落下したり、飛んでいる飛行機の上で格闘するダイハードのブルースウィリスのようです。群衆劇というか、集団舞踊というか、大サーカスというか、とにかく私の想像の域を超えたショーに堪能してしまいました。やっとホテルにたどり着いた時にはもう夜中の1時を廻っていましたが、帰り道でも大勢の人達が通りを歩いていて、新宿などとおなじ不夜城の街を実感してしまいました。
やっぱり定番のグランドキャニオン
次の日は、グランドキャニオン空の旅です。勉強不足だった私は、ラスベガス近くの空港から出発するセスナはグランドキャニオンの上空を廻って帰ってくるだけだと思っていたら、1時間足らずのフライトの後セスナはグランドキャニオンの中の飛行場に着陸してしまったのです。「これからどうなるのだ」と女房にも本音を言えず、付いていくと食事の後バスでグランドキャニオンのツアーが付いていたのです。セスナから見下ろすグランドキャニオンの渓谷は、広い台地の中を赤い流れのコロラド川支流と本流が縦横無尽にうねり廻り、荒々しい景観を呈したものでした。その流れの中に有名なフーバーダムが岩と岩の間にそそり立ち、大きな湖を作っています。この水瓶のおかげで砂漠の中のラスベガスが水を存分に使えるそうです。地上から見るグランドキャニオンはセスナから見たものとは異なり、渓谷の深さは川の流れさえも見えないもので、自然の浸食の力を思い知らされたものでした。まあ、一度は見ておきたい風景のひとつでしょうか。
とにかく「O」のショーは見たかった
目的だった「O」のショーは、またまた素晴らしいものでした。舞台の中が大きなプールとなっていて、そのプールステージの床面が上下に移動し、水深を自在に変えられるようになっている。そのような舞台装置の中で演技者達は水中、水上、空中を使って幻想的でなおかつ激しいアクロバットを見せてくれるわけです。「O」や「Ka」のショーを言葉で伝えようとしてもこれはなかなか難しいのです。かって見たことのないものことを伝えるもどかしさというか、共通認識がない人達に伝える未知の出来事というのか、一度見てご覧なさいとしか言いようがありません。天井(その高さは20m近くもあるではないかと思う)からつり下がる数々の輪に乗った演技者達が少しずつゆっくり下降しながら、だんだん大きな揺れになり、その輪をブランコ代わりにして様々なアクロバット的演技を見せ、最後はプールに飛び込んでいく有様は、夢の中の出来事のように思えます。女房は「O」の方が良かったと言っていましたが、確かに「O」は女性好みに構成されているようです。ちょっとメルヘン的、ちょっとロマンティック、ちょっとコミカル、本当に楽しめるショーです。
街全体がテーマパーク
私達が現在「ラスベガス」として認識しているストリップ通りの歴史は浅く、ダウンタウン(かっての繁華街)とはかなり離れた位置のある、まさにテーマパークのようなホテル街です。この一軒一軒のホテルがまた途方もなく広く、それぞれがテーマに沿った目玉を持っているわけです。ちょっと「ラスベガス大全」を覗いてみると一目瞭然ですが、私達が泊まったパリスはエッフェル塔と凱旋門、隣のシーザースパレスにはコロッセウムや数々の彫刻群、ベネシアンの中は運河があってその中をゴンドラが走る、などと本当に街全体が巨大なテーマパークになっています。バスやモノレールでホテル間を繋いでいますが、何しろひとつひとつのホテルが広いので、停留所からホテルまでの距離も結構あります。何軒もホテルを歩き回ったのですが、それだけで疲れ果ててしまいました。私達の旅のもうひとつの目玉に、ホテルチェンジがありました。ベラチオという最高級なホテルにも泊まったのですが、やっとホテル内の様子が分かり始めたパリスからベラチオに移るとまたもや迷子になってしまいます。
ちょっとギャンブルも
ラスベガスはギャンブルの街です。私はどうもギャンブルというのは苦手で、あまり手出しはしません。ミーハーな女房は「ここに来たらギャンブルをしなくちゃあ」と言い、「スロットでもしていろ」というと「ディラーを相手にテーブルで勝負しなくちゃ」と言い張ります。そこで「ちょっと覗いてご覧」とテーブルの後ろに立って勝負を拝見させたわけですが、どのようなルールか分からない上、その勝負の早さに彼女は驚いてしまいました。「私は出来ないから、あなたがやって」と自分勝手な彼女が言い出すわけですが、ルールも分からない勝負に打って出るほど私は馬鹿ではありません。そこで彼女にスロットを勧めたわけですが、驚いたことにこのスロットの単純なルールさえ彼女は知らなかったのです。「はい、そこを押して」「今度は2枚掛けをしたら」などと横から声をかけながらスロットをさせると、大勝ちはしないまでも少しコイン数が貯まったら「これはお金に代えられるの?」と聞いてきます。「そのボタンを押してご覧」とキャッシュボタンを押させるとレシートのような紙が出てきます。この紙を持って他のスロットにも行けるし、キャッシャーで換金も出来るようです。「ギャンブルも楽しめたかね」と、はまり込んで金をつぎ込むことなく私達のギャンブル体験は終わりました。
馬鹿になりきれなくなった私を見つけた
このところテンションが低いままラスベガス旅行に出かけたのですが、やはり昔ほど海外旅行でもテンションが上がってきません。ミーハーな女房があれこれ注文をつけるのを淡々とこなしながら、そこそこには楽しめるのですが、もうひとつ盛り上がってこないと思い続けていたら、「あっ、最近は妙に訳知りになってしまい、馬鹿になれなくなっている」と思い至りました。そうなのだ。仕事、パソコン、遊び、どれをとっても夢中になれない自分というのは、大馬鹿をしたところでどうなるなんて妙に醒めている自分を再発見してしまいました。うーん、これってどうなんだろう。ドクトルTOSHI先生、自分探しって何でしょうか。