OMATSURIKOZO's talk salon


ランダムアクセス 2005年11月号
連載223回

カラーレーザーは
ランニングコストが高い

と言うより,私が馬鹿だったのか
「一太郎裁判」と出射さん!
 


お祭り小僧のランダム・アクセス

 やっと秋らしくなってきたと思ったら、もう年末が近いではないですか。「秋の夜長はパソコン」なんて言っていた頃、パソコンは大変楽しいおもちゃでしたが、最近は刺激的なこともなくなり、「起きていれば酒も飲むし、タバコも吸ってしまう。さっさと寝よう」なんて年寄りになってしまいました。

 実は10月の末に女房とバリ島に遊びに行こうと予約していたところ、例の爆発騒ぎによって怪しくなってしまいました。予約をキャンセルしようとしたところ、「海外渡航禁止区域ではない」という理由でキャンセル料はとられてしまいます。私としては「今はかえって危険が少ない」と思ったのですが、お袋が心配するので結局キャンセルをして、北京・西安に出かけることにしました。常夏の国から、北の国に鞍替えしたわけですが、さてどんな旅行になる事やら。

カラーレーザーと私のチョンボ

今年の5月、エプソンのレーザープリンターLP-900を壊した後、カラーレーザープリンターLP-V500を購入した話をしましたが、その後日談を書いてみましょう。カラートナーを差し込んだとき、トナーのセット箇所を間違えたというか、深く考えないままにシアンのところにマゼンタを差し込んでしまったのでした。マゼンタを差し込んだ後、次の色を差し込もうとしたところ小さな液晶の端に「M」の文字が出ていました。これはひょっとしてマゼンタのことかなとマニュアルを調べ直したところ、やはりマゼンタのことです。慌ててシアンのところにセットしたマゼンタを取り出そうとしたところ、オートマチックにカートリッジボックスは次ぎに回転してしまっていて、前のボックスには戻りません。エプソンのトラブルシューティングを見ても、インターネットのマイエプソンを調べても、カートリッジを入れ間違えたなんてものは出ていません。ホームページに質問箇所もありません。サービスセンターに連絡しようにも、夜間は時間外。一般のサラリーマンにとって、サービスセンターに電話をかけようとすれば仕事中に時間をとって連絡するか、休みを取るしかありません。数日そのままにしていましたが、「もういい、残りを入れてしまえ」とシアンとマゼンタを逆にしたまますべてをセットしてしまいました。プリンタドライバをインストールし、印刷するとちょっと色がおかしいものの、「色つき」で印刷でき、「黒」は問題なく印刷できたので、「写真を印刷するわけでもない」とばかりそのままでポスターなどを作っていました。秋口になって、「k」インクが少なくなったと液晶に出てきました。案外早い時期にトナーは無くなるものだな、カラーレーザーはランニングコストが高いという話は聞いていたものの、その通りだと思ったわけです。まあ、仕方がないのでトナーを購入しようとしたのですが、この時「このついでにいろ間違いを正しておこう」と思い至り、サービスセンターに電話したところ今回はあっさり繋がってしまいました。事情を説明したところ、「間違ったところにはさしこめないでしょう」と言われましたが、「そんなことはないぞ。どこでも簡単にセットできたぞ」というと黙ってしまいました。印刷もしていると話すと、「印刷してしまったのですか」と残念そうに答えます。「どうやったらカセットを取り出せるのだ」と問うと、「その機種は出張サービスで修理するしか方法がありません」と言います。仕方がないのでホームページで出張修理依頼を書き送ることにしました。「ところで出張サービス費はいくらなのだ」と聞くと、「半年間は保証期間内だから無料です」と答えてくれました。慌てて保証期間を調べてみるとあと半月もありません。ちょっと胸をなで下ろしたものの、昔は1年保証だったのにずいぶん短くしたものだとちょっと軽い怒りが湧き起こってしまいました。

マニュアルに書いておけ!!

 さて、出張サービスの日を決めたわけですが、休みを取るわけには行きませんから、友人に立ち会いを頼みました。カートリッジの取り替えは簡単に済んだようですが、印刷をすると色がおかしいままで、「カートリッジの先のディベロッパーという部品を取り替えないと色は混じったままとなるので、これを取り替える必要がある。日を改めて再び修理に来ます。ついてはこの部品は有料となります」とのことだったそうです。あの時サービスセンターの男が「印刷したのですか」と残念そうに答えた意味が分かりました。

 エプソン、「マニュアルの中にカートリッジを間違えて差し込んだら、絶対に印刷しないですぐにサービスセンターに連絡すること」と明示しておけ!!

 このディベロッパーの金額は1ヶあたり1万円からするもので、間違って差し込んでいるわけですから、2ヶ所で2万円以上です。8万円ほどのプリンタで、カートリッジは1本1万円以上もするわけですから、部品だけで本体価格と同額になってしまいます。まったくカラーレーザーというやつはまだまだランニングコストが高い。

IT企業の企業買収

 さて、最近は経済ニュースが騒がしい。春にはライブドアによるニッポン放送・フジテレビの株買い占め、秋口には村上ファンドによる阪神株買い占め、楽天のTBS株の買い占めと本当に騒がしい。経済ニュースによれば楽天の株式は1兆円を超えていて、TBSは7000億円、全くIT企業の急成長には驚かされるばかりです。「IT企業なんて、あんな新興の会社が何を言い出しているのだ」という旧企業の経営陣の気持ちも分かりますが、凄い時代になったものです。村上ファンドは阪神側に「阪神球団」の株式公開を提案したところ、スポーツ新聞をはじめとした現球界メンバーはこぞって大反対を合唱しています。世論の流れとしても、「神聖なスポーツを金に換えるなんて」と反対の方向をマスコミも作り上げようと必死になっているようですが、私は「球界が変化するきっかけになるのでは」と期待したりしています。もっともあまりスポーツに熱心ではない私の意見ですから、熱心なという阪神ファンから非難もあるでしょうが、会社の広告塔で親会社におんぶにだっこ状態より、自分たちが経済的に自立した方がよっぽどファンサービスなどが向上するのではないかと思ったりするわけです。現状をとにかく維持しようとするのではなく、本質を維持する、あるいは本質の改善を求めることが大切なわけだと思うわけです。

 楽天のTBSへの経営統合の要請は、ライブドアによるニッポン放送への切り込みと同じで「将来のインターネットと従来コンテンツを多く持つ放送界との統合」というテーマなのでしょうが、これはライブドアとフジテレビの例を見てもまだまだ未知数の世界ですが、三木谷社長はこの世界のイニシアチブをとりたいのでしょうね。当然、コマーシャルを省いて録画するレコーダーやテレビに時間を割く時間が少なくなった情勢などを考えると、テレビ界も今のままでよいとは考えてなかったでしょうが、彼らが打って出るのではなくて、攻め込まれている現実を見ると、過去の映画界とテレビ界の戦いを見ているようです。私を含めて一般人には、ライブドアや楽天、あるいはソフトバンクが本当にどんな事業をしているのかを知っている人は少ないでしょうね。彼らはインターネットのポータルサイトの会社だというのが一般的な印象ですが、彼らのM&Aはありとあらゆる業種に手を出し、昔の財閥を思い起こさせるものがあります。もっとも古い財閥は第2次産業のコンツェルンでしたが、彼らは金融を含めた第3次産業のコンツェルンを目指しているのでしょうね。古い世代に属している私などは、妬みも交えながら彼らの台頭にちょっと期待と不安を感じています。同じ時代を過ごしながら、パソコンやインターネットの台頭を利用してここまで這い上がってきた彼らを見ると、我々一般人というヤツの無能さを思い知らされてしまいます。

「一太郎裁判」の結果

 松下が起こした「一太郎裁判」ですが(「ランダム・アクセス2005/03で触れています)、高裁では松下の逆転敗訴になりました。松下には最高裁への上告権があったわけですが、「判決の中で“ソフトウエアが特許権の侵害品となり得る”という当社の主張が認められた点を評価した。知財高裁の判決を受け入れ、上告を取りやめた」(松下広報)と上告を断念し、判決は確定しました。

 難しい話は抜きにして、最初に新聞でこの1審裁判の結果を見た時、「えっ、一太郎が特許違反?」と驚き、「何が特許違反だったのか」とすぐさま内容を調べました。新聞記事では深い裏事情は述べられていないものの、「ヘルプを得るためのアイコンが松下の特許違反である」「松下が知的財産の保護強化を強く打ち出している」と言った内容がありました。おいおい、「ヘルプを得るためのアイコンが松下の特許違反である」って言ってるけど、そんなのが特許になっていたの?と言うのが正直な気持ちで、だったらWindowsやMacのOSはどうなるの?とも思ったわけです。インターネットで詳しく調べてみると、松下の特許戦略は訴訟能力の低い企業を狙ってみかじめ料をとって回れというもののようで、この特許に関してソーテックやジャストシステムを狙い打ちしたようです。インターネット上では、私の感想と同じようなニュアンスのものが多く流れ、「松下不買運動」だと言った強硬なものもありましたが、どこか松下の知的財産部の動きに関して胡散臭いものを感じた人達を多かったようです。

 一審判決は、一太郎、花子の両ソフトの製造販売停止と廃棄を命じる内容でジャストの株価は一変にダウン。ジャストはすぐさま控訴し、製造販売停止と廃棄はとりあえず引き延ばしすることが出来たわけですが、パソコンのルールなどに詳しくない人達にとっては「敗訴」は「悪いことをした」という印象を与えてしまったのでしょうね。控訴控訴審は新設されたばかりの知的財産高裁で行われました。しかも知的財産高裁は重要な争点が含まれるとして裁判官5人による「大合議」で審理していたわけです。

  高裁判決で篠原裁判長は、松下が特許出願する前に刊行された海外の書籍などの内容を検討したうえで、「本件特許出願当時、ヘルプを得るためのアイコン、すなわち、機能説明を表示させる機能を実行させるアイコンも、既に公知の手段であったことが認められる」と指摘し、特許の“進歩性”を否定した。パソコンに親しい人達が持っていた感想を肯定したわけです。さらに松下の特許は「周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明に係る本件特許は、特許法29条2項に違反してされたものであり、特許無効審判により無効にされるべきものと認められるというべきである」として、特許自体が無効に当たるとの認識を示した。判決は結論で「松下はジャストに対し、特許権を行使することができない」とし、松下側の請求を棄却した。

知的財産と企業論理

 ソフトの知的財産というものは「守られなくてはならない」ものだとは思うものの、その公共性を考えることも重要なことです。今回の「一太郎裁判」とその一審判決は「守らなければならないもの」を守ることよりも、「企業利益を守る」という価値観を大事にしすぎたもののように思えます。多くの人が話しているように、「のまねこ」騒動も類似した事件といえるでしょう。私達は、本当に新しいものを想像した人の権利に対して尊敬と敬意を持って対することは出来ます。しかし、世間的に常識化しようとしている「ちょっとしたアイデア」を大企業が自分があたかも生み出したかのように「特許」を取得しようとするのは、あまりにもセコイじゃないのと言いたくなるのは当然だと思います。これが名もない人がシコシコと長い間研究して世間に広めたのだったら、私は彼の特許権を認めても良いとは思いますが、大企業が社会に広まりつつアイデアを盗んで「先優権」のような形で「特許」にするなんて卑劣としか言いようがありません。自分たちが本当に想像したものなら誰もそれを批判しないだろうし、「ちょっとしたアイデア」位なら、特許だ権利だなどとは言わず、みんなの共有物だと言い放った方がよっぽど社会的なアピールが出来るのではないでしょうか。もはやフリーソフトという概念が定着してしまいましたが、パソコン通信が始まった当時の事を思い出してしまいました。

出射さんとフリーソフト

 10月の中頃、FD作者の出射さんが昨年亡くなったという話がインターネット上で流れました。私が彼の良き友人であったか、悪友であったかは別にして、よき時代を共有した友人を思い出すにつれ、こうした松下裁判の行方を考え深く思ったわけです。「著作権」は放棄しないけれど、それを有効に利用していこうとしていく人達には開放しますよ、と言った理念を熱く語っていた彼を思いだし、セコイ企業理念を表に出してきた「松下の弱いものいじめの精神」に、松下幸之助氏の偉大さはどこに行ったのかと呟いてしまったのは私だけではないと思います。今回の裁判結果を見て、私は「当然の結果だ」と思ったわけですが、大企業は自分たちの社会的な立場というものを考えなければならいと本当に反省したのかどうか、それが問題だと思ったわけです。


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